フォレストサイドハウスの住人たち(その5)
23 フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(123)
鶴岡次郎
2014/02/05 (水) 12:25
No.2467
男が素直に犯行を自白した本音が判ったことで、店長はかなり余裕を取り戻していました。もし、
男が犯行を否認したら、どう決着をつけようか思案がまとまっていなかったのです。

〈こんな男でも、親分に責められるのが恐いのだ・・、
しっかりした組織のようだから、このことがバレたら、軽くて一年の降格、
再犯であれば、一番下のチンピラまで降格されるかもしれない・・、
いずれにしても、この男の弱みを掴んだ・・・・。

それにしても・・、恐れていたことが現実になった・・。
さて・・、どうするか・・・、
幸い、この男はそのことをネタにして脅かしをかけるつもりは無い様だ・・、
そうであれば、口を封じるだけでいいことになるが・・・・・〉

お客が素直に罪を認めた真意が判り、店長はほっとしながらも、お客の言葉に愕然としていました。
男の言葉どおりであれば、加納千春ならセクハラ行為を易々と受け入れると、お客の知り合いから
面白おかしく教えられ、千春のカラダ目当てにこの店に乗り込んできたのは確かなのです。

それまで、千春達の破廉恥な行為をうすうす知りながらも、好調な売り上げを維持するため黙認し
てきた店長ですが、その行為を初めから期待して来店するお客がいることを初めて知ったのです。
その行為がお客の間にかなり知れ渡っていることを店長は悟ったのです。一番恐れていたことが現
実になったのです。

〈店員達の破廉恥な行為このまま放置すれば、やがて噂が噂を生み、店員の身体を餌にして営業を
しているいかがわしい店の烙印を押され、本社からきついお叱りを受け、閉店に追い込まれること
になる・・・。

人知れず、この問題を解決したい・・、今なら何とかなるはずだ・・・〉

店長は宙に視線を向け、目の前に居る南の事を忘れて、店員達の不祥事の始末方法を考えることに
夢中になっていました。

「店長・・、どうだろう・・、
これで許していただけるだろうか・・」

「アッ・・、そうでしたね・・」

我に帰った店長が目の前に居るお客、南に微笑みかけています。先ずこの男の処分を決め、それか
らこの男の口を封じなくてはいけないと、店長は考えました。一見してまともな稼業の男には見え
ないですが、話せば判る男だと、店長は判断したようです。

「私どもの店員が新人で、お客様のからかいに対して、やや過剰な反応をしたにもかかわらず、正
直にお話しいただき、その上、そのことを十分反省されていることが良く判りました。私共がこれ
以上、申し上げることは何もありません・・。

私共にとっても、お客様にとっても、今回の事は名誉なことではありません・・、
いろいろ考えたのですが・・・、
お客様さえ納得いただけるなら、全てを水に流したいと思っております・・・。

お客様、今回の事は全て・・、忘れてください・・・。
私共も、今日起きた事は全て忘れます・・。

そして、このお金は引っ込めてください。
何もなかったことに・・、
あの子には私からも良く言っておきます・・」

テーブルに置かれたお金を押し戻しながら店長が笑みを浮かべて言っています。ビックリした表情
で男が店長を見ています。

「無罪放免なの・・・、そう・・、そう言っていただけると・・、
俺としては有難いのだが・・、何だか悪い気がするネ・・・、

判った・・、店長のご好意に今回は甘えることにする・・」

そう言って、男はテーブルの上のお金を取り上げ、ポケットに納めました。男の動きとその表情を
店長が油断なく探っています。次に男へ突きつける要求の成否を店長は探っているのです。