フォレストサイドハウスの住人(その3)
15 フォレストサイドハウスの住人(その3)(59)
鶴岡次郎
2013/08/19 (月) 13:41
No.2390

「私・・、これだけは加奈にも言えないと隠していることがある・・」

加奈を真正面から見て、悠里が話しています。素人離れした整った顔が引き締まり、気高ささえ
感じられるほどの美貌です。加奈はその場の雰囲気を忘れ、うっとりした心地で悠里の表情に見
惚れていました。この瞬間の悠里を抱きしめたい、そんな思いで加奈は悠里をじっと見つめてい
ました。加奈の気持ちが判るのでしょうか、悠里はそっと加奈から視線を外しました。顎から首
にかけて、ほんのりと肌がピンク色に染まっています。

「本当は・・、加奈にはこのことは一生言わないつもりだった。
彼に抱かれた経緯を・・、今日、告白し終わったら・・、
もう・・、絶対会わないつもりだった。

私と加奈は別世界に住む人間になってしまったの・・、
例え、近所に住んでいても、以前のように親しくしてはいけないと思っている・・。

それは全部私が犯した罪のせいなの・・・」

ここで言葉を切り、悠里は最後の言葉を考えているようです。その言葉を出せば二人の仲は永久
に終わることが悠里には判っているのです。両肩を前後に少し振り、悠里は気力を振り絞り言葉
を出しました。

「私・・、売春婦になってしまった・・・」

『 私・・、身体を売っている・・』と言うべきところですが、小説の中から言葉を選んだので
しょうか、普段なら絶対使わない古典的な言葉、「売春婦」と言う言葉を悠里は吐き出しました。
その言葉が今の悠里の気持ちを的確にあらわしていると悠里は感じ取っていたのです。

「・・・・・・・・」

加奈は驚きで言葉を失っています。二人は互いの瞳を覗き込んで、にらみあったまま、その場に
凍りついていました。



「彼・・、佐王寺さんは一匹狼の竿師なの・・」

エリートサラリーマンの妻である悠里の口から『一匹狼の竿師』などという言葉が出ること事態
奇妙で、以前の加奈なら腹を抱えて笑い出すところですが、今の加奈にはそのいまわしい言葉が
悠里の苦悩を具体的にあらわしていると判るだけに、悲痛な思いでその言葉を噛み締めていたの
です。勿論、その言葉の意味はかろうじて加奈も承知していました。

「どんな手段でその情報を掴んだのか判らないけれど、私達がカラオケ通いで男漁りをしている
ことを事前に掴んでいて、彼は計画的にアプローチしてきた・・・。
私と加奈を色仕掛けで落とし込もうと考えたのよ・・・。

そして、色仕掛けに弱い私に・・、
スケベな私に・・、彼は狙いを定め、
徹底的に私を弄んだ・・。
元々、色事が好きだから、私は直ぐに彼のチ○ポの虜になった・・。
私は彼のチ○ポ奴隷に成り下がってしまった・・・」

綺麗な顔に小悪魔的な、それでいてなにやら神秘的な笑みを浮かべ、少し唇を歪めながら、悠里
は話しています。そうすることで、汚れてしまった彼女自身を加奈に見せ付けているのです。

「悠里・・、
ちゃんとした言葉を使いなさい・・!
そんなの悠里らしくない・・」

「ハイ・・・」

悠里が素直に頭を下げています。

「彼・・、カラオケ店で私と加奈に薬を使ったと白状した。
それほど強いものでないけれど、中国から取り寄せた媚薬だと言っていた。
クリーム状の媚薬で、チ○ポ・・、いえ、男根にそれを塗って交わると、素人女ならイチコロだと言っていた」

加奈の推測は当っていたのです。