フォレストサイドハウスの住人(その3)
14 フォレストサイドハウスの住人(その3)(58)
鶴岡次郎
2013/08/13 (火) 14:18
No.2388
「確かに情熱的に彼は私を抱いてくれた。失神するほど私が感じたことも確かだった。でも・・、
ものすごく乱れた私に比べて、彼は凄く冷静だった。普通の男であれば、狙った女があんなに狂
い出したら、もっと興奮し、喜びを露にするはずだけれど、彼は違った・・。

その証拠に、彼は最後の最後まで余裕を残していた。私が失神して、ギブアップ宣言をした時、
初めて彼は精子を私の体の上に吐き出していた。後になって考えると、その行為さえ落ち着いた
もので、興奮の頂点で夢中で吐き出す一般の男達の行為とは根本的に異なると感じた。身体の上
に精子を吐き出したのは、手に入れた私という女に彼の刻印を押すマーキングだと思った。彼は
勃起や放精でさえ、自由にコントロール出来るのかもしれない。

別の言い方をすると、私が欲しくなって、抱いているのではなく、情欲とは無縁の何か別の目的
があって・・、プロとして、仕事の一環で私を抱いているように思えた。

最終的な彼の狙いは、今でも良く判らないけれど・・。
明らかに、彼は私を・・・、そして多分悠里も・・、
抱くことが最終目的でないはずだと思う。
その先に本当の狙いが隠されていると思う・・・・」

加奈はかなり思い切ったことを言っているのですが、悠里は何も言葉を発しません。驚きで言葉
が出ないわけではなく、どうやら悠里には加奈の指摘に思い当たることがあるようです。

「そこまで考えると、私は完全に目が覚めた・・・。
こんな男のために、大切な友を裏切ることは出来ないと思った・・。

その場で彼に電話して、今後一切の付き合いはしないと言った。
彼は驚きながらも、私の返事をある程度予想していたようで、
何も聞かないで、あっさり私の申し出を受け入れてくれた・・・・。

その後一切のアプローチはない・・」

「加奈・・・」

悠里がポロポロと涙を流しています。加奈がハンカチを取り出し、手を伸ばして悠里の涙を拭って
います。子供のように加奈に涙を拭わせながら、悠里が泣き笑いの奇妙な表情で加奈を見ていま
す。二人の心は一つに戻ったようです。

「加奈がそんなに私のことを思ってくれているのに・・、
私は彼の体に溺れて、加奈のことは忘れていた・・。

ううん、そうじゃない、加奈のことを忘れることなど出来なかった・・・。
出来るだけ考えないようにしていた。
加奈を忘れるために、彼の体におぼれていたのかも知れない・・」

傍目を忘れて、悠里が大粒の涙を落としながら、泣いています。今日まで心に貯めていた苦しみを
吐き出し、悠里は晴れ晴れとした気分で泣いていたのです。

「加奈・・・、
本当のことを言うと、加奈を出し抜いて、勝ったと思っていた・・・。
彼は私を選び、私を愛してくれていると思っていた。
その愛に応えるため、私は彼の望むことなら何でもする気になった。

でも・・、加奈が感じ取っているように・・、
彼は最初から、私を陥れるつもりだった・・。
そうとも知らないで、バカな私は、彼に愛されていると思っていた。
バカでしょう・・・、本当にバカな私・・・」

悠里が顔を上げ、涙に濡れた顔に、何かしら決意を秘めた表情を浮かべて、ゆっくりと語り始め
ました。