フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(その2)
26 フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(その2)(43)
鶴岡次郎
2013/05/16 (木) 10:02
No.2367
ここまで一気に話した栄二は、さすがに喉が乾いたようで、テーブルの上からコップを取り上げ、
半分ほど残っていた琥珀色の液体を一気に飲み干しました。部屋の奥では、八百屋の健介と金物屋
の篤が悠里の体に絡みついています。健介の男根が深々と悠里の股間に沈み、篤が悠里の乳房に噛
り付いています。悠里は両手両脚を激しく動かしてわけの判らない呻き声を発しながら、悶え苦し
んでいます。その側で、ソファーに深々と身体を埋め、金治が穏やかな表情を見せて午睡を楽しん
でいます。

栄二と加奈はそんな騒ぎとは別次元の世界に居るような様子で、栄二の話す恋物語の世界に入り込
んでいるのです。

「加奈さん・・、
あの時の僕はなんてバカだったんだろうと・・、
今でもその時のことを思い出すと、居ても立ってもいられない気持ちになる・・。

本来なら、その場で罵倒され、殴り倒されて当然なのに、金さんは僕の気持ちを労わるように、
言い聞かせるように、優しく、丁寧に説明してくれた。僕はたまらなくなって・・。
恥ずかしいけれど、泣いていた・・・」

加奈を見つめて話している栄二の瞳が濡れていました。加奈の瞳もまた潤んでいました。

「静香さんを愛していると言いながら、僕は自分のことしか考えていなかった。
それに比べて、金さんは・・・・、
金さんは本当に静香さんを愛していた・・。
その気持ちを抑えて、静香さんを僕に託してくれた。

静香さんの幸せのためなら、金さんは自身の気持ちを殺すことだって出来たのだ。
僕にはとてもそこまで出来ないと思った・・。

金さんの大きな愛情に僕は打ちのめされていた。
静香さんを愛することでも、とても金さんにはかなわないと思った・・・。
これ以上、静香さんの問題で金さんを悩ませることは出来ないと思った。
本当に辛いのは金さんだと思った・・。

それで金さんにそのことを伝えた。金さんはすごく喜んでくれた・・・」

栄二は加奈の瞳の奥を見つめながら語っています。栄二の瞳にも、加奈の瞳に涙が溢れていまし
た。

「これが最後だと前置きして、金さんは真面目な表情を作って、
僕に話しかけてきた・・・」

栄二を喫茶店へ呼び出した本題をいよいよ金治が切り出すつもりだと、緊張した表情を浮かべ栄二
は金治を見つめました。僅かに残っていたコーヒーを啜りこむように飲み干して、金治は笑みを栄
二に投げかけてゆっくり話し始めました。

「ここへ来る前、長い時間をかけて静香と話し合ってきた・・・。
最後に、栄ちゃんのことは忘れる努力をすると静香は約束してくれた。
それでも、きれいな思い出として心の奥に残して置くことだけは許して欲しいと・・・、
静香は泣きながら言った・・・。

勿論、俺も全てを忘れて・・、何も無かったことにして、
これからもこれまでどおり、栄ちゃんと付き合うつもりだ。

栄ちゃん・・、明日迎える奥さんを悲しませないよう、
これからは奥さんだけを愛して欲しい・・・、
これは俺と静香からのお願いだ・・・」

そう言って、金治は栄二の手を両手で握り締め、二、三度振りました。栄二は頭を下げ、金治の手
に額を押し付けていました。栄二の涙が金治の両手を濡らしていました。やがて、握り締めていた
栄二の手をゆっくりと解き、金治は立ち上がり、右手で栄二の頭を撫ぜ、背を向けて、店を出て行
きました。栄二はその場に立ち上がり、金治の後ろ姿に深々と頭を下げていました。


「それ以来、金さんとも、勿論、静香さんとも普通の付き合いだよ・・」

「いいお話ね・・・
金さんて・・、勿論、栄二さんもすばらしい人・・・
ヤバイ・・・、私・・、二人の虜になりそう・・・」

泣き笑いの表情を浮かべる加奈の瞳から涙が溢れ、頬を伝って、彼女の白い顎から水滴が滴り落
ち、白くて豊かな大腿部に落ちていました。