フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(その2)
25 フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(その2)(42)
鶴岡次郎
2013/05/10 (金) 11:43
No.2363
「静香は栄ちゃんが好きでたまらなくなり、気がついたら自分から誘いかけ抱かれたと泣いてい
た。黙っていれば判らない浮気を、俺に告白したのも、一度きりと決めていた栄ちゃんとの関係
をいい思い出として残したいと思ったからだった。勿論、離婚も覚悟していたようだ。

告白を聞いた俺は、静香との離婚だけは絶対避けたいと思った。静香が栄ちゃんに惹かれている
のが良く判った。そして、今は盛りと咲き誇っている静香と接して、栄ちゃんがどんな気持ちに
なっているか、俺には良く判った。男同士だからな・・・」

栄二はまともに金治の顔を見ることが出来ないで、下を向き、ただひたすらに恐縮していました。
金治の言う通りなのです。生まれて初めて接した女性、静香の香り、夢の中にいるような優しい
肌、そして、初めて経験した膣、全てが栄二を狂わせたのです。静香のためなら、この場で命を
絶たれても悔いはないと思ったのです。

そんな栄二の様子を見て、金治の表情に笑みが戻っていました。先ほど、栄二の純粋な気持ちを
まともに受け止め、金治は少し当惑し、どう事態を収集するか慌てていたのです。栄二が落ち着
き、彼自身の罪を自覚して恥じ入っている様子を見せ始めたことを知り、これなら、何とか収集
できそうだと安堵していたのです。

「たった一度の過ちを犯した後、若い二人が罪悪感に震えながら、互いに、惹かれあい、悶え、
悩んでいるのが俺には容易に想像出来た。しかし、静香は絶対に誰にも譲れないと思った。例え
わが子のように可愛い栄チャンであっても譲れないと思った。しかし、冷静になって考えると、
残念だけれど、20代でイケ面の大学生に対して、風采の上がらない40男の俺に勝ち目はない
と思った。

それで、俺は栄ちゃんとの仲を認めることにした。いわば、静香を引き止めるため、栄ちゃんを
利用したのだ。悪いのは俺で、静香には何の罪も無い。今でも静香は栄ちゃんを心から愛してい
ると思う・・、俺がこんなことを言うのは妙な話だが、栄ちゃんを愛する静香の気持だけは信じ
て欲しい・・・・」

ここで言葉を切り、金治は栄二の反応を探っていました。金治の説明を都合のいい戯言だと受け
取られるのを恐れていたのです。静香の純愛だけは正確に栄二に伝えたいと金治は思い始めてい
たのです。

栄二は静かな表情で金治の話を聞き、その内容を正確に理解している様子でした。栄二の様子を
見る限り、先ほど見せていた、激しい怒りの感情や、救いようのない絶望感の影は消えています。
この様子なら、大丈夫だと金治は考えたようです。

「最愛の静香を俺の所に引き止めるためとはいえ、栄ちゃんと静香の仲を知っていながら、何も
しないで捨て置いたのは、今考えると、俺のミスだったと後悔している。分別盛りの俺が、若い
二人が道ならぬ道、救いようのない結末しか存在しない道を、ただひた走るのを黙って捨て置い
たのは、確かに俺が悪かった・・。

このとおりだ、許して欲しい・・・」

目の前で頭を下げる金治を見て、栄二ははっきりと我に帰り、自身の罪深い立場を再自覚していま
した。金治は何も悪いことをしたわけでなく、罪深い行為をしたのは自分であることに改めて気が
ついたのです。

50歳になり働き盛りを迎えている脂ぎった金治の顔を真っ直ぐ見つめながら、若い栄二は今にも
泣き出しそうな表情を浮かべていました。