フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(その2)
24 フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(その2)(41)
鶴岡次郎
2013/05/08 (水) 14:18
No.2361
二人だけの秘密だと信じ込み、背徳感と、罪悪感に苛まれながら、それでも静香への思いを断ち
切ることが出来ないで、遂には二人で地獄に落ちようと覚悟を決めて禁断の木の実を食べ続けた
栄二だったのです。その覚悟はある意味で栄二の命をかけたものだったのです。

一方、静香は、二人きりの時、その行動は大胆で、経験の浅い栄二は常にリードされていました。
栄二はそんな静香の様子を見て、「開き直った女は凄いと・・」といつも感心していたのです。
それが、静香は夫から許可を得て、栄二との浮気を続けていたと判ったのです。

「金治さんが聞けばきっと怒り出すと思いますが、許されることはないと思いながら、私はいつ
しか静香さんを愛するようになっていました。もし、金治さんに知られるようなことになれば、
その時は潔く裁きを受け、金治さんが望むなら、私の命を差し出してもかまわないと思うように
なっていました・・・」

思いつめた様子で栄二が一気に話し始めました。笑みを浮かべて聞いていた金治の表情がだんだ
んに引き締まり、表情から笑みが消えていました。

「お叱りを受けるのを覚悟して言います・・。
私は本気で静香さんと結婚したいと考えておりました。
勿論、静香さんが金さんと離婚してくれることが条件ですが、多分最後になれば、静香さんは金
さんより僕を選ぶだろうと自惚れていました・・。

それが、静香さんにとって僕は・・・、
夫の許可を得て遊ぶ若い男でしかなかったことが判りました・・・。
当然といえば、当然ですよね・・・、
静香さんとの結婚生活を夢を見た私が愚かだったんだと思います・・・。

静香さんに愛されていると思った私が愚かでした・・・・」

金治夫妻に弄ばれていたことがようやく判ったようで、二人への怒りを通り越して、栄二は少し
自棄になっていました。それでも、悪びれた様子はなく、どこかさばさばした表情で栄二は語って
います。そんな栄二を見て、少し慌てながら金治が口を開きました。

「いや・・、そうでもない・・・、
静香は栄ちゃんを本気で愛していたし、
今でも彼女にとって一番の男は、栄ちゃんだと、俺は思っている・・」

ここまで余裕のあった金治ですが、栄二の切々とした告白を聞かされて、かなり慌てています。
それを言ってしまっては、あまりにも自分が哀れになると思って言わないつもりでいた静香の本
心をここで栄二に説明する気になったのです。

「静香は中学校を出ると直ぐに花柳界に入り、夢多い思春期をその中で過ごしたのだ。そして、
多分、普通の女性なら経験するはずの恋愛経験もないままプロの世界に入ったと思う。

私と結婚した時、彼女は売れっ子の芸者で、勿論、男女の仲のことには良く通じていて、それな
りの大人の女性だった。栄ちゃんに静香が出会ったのはそんな時だった。10年前のことだから、
確か・・、栄ちゃんが大学4年、静香が25歳の時だった。

多分、栄ちゃんは静香の知らない種類の男だったはずだ、彼女自身でもどうすることが出来ない
感情に捕らわれて、彼女から誘って栄ちゃんに抱かれたのだ・・。
多分、それが彼女にとって、初めての恋だったと思う・・」

若い栄二に言い聞かせるように金治は話していました。一時の興奮状態から冷めたようで、栄二
はようやく持ち直し、静かに金治の話を聞いています。