二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人
10 (10)二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人たち
鶴岡次郎
2013/02/25 (月) 18:06
No.2324
2323(1)
「幸恵が居なくなって、私は初めて彼女の存在の大きさが判りました。
彼女無しではこれか先の人生は考えられません・・。
どんなことをしても、彼女を探し出したいのです。

不幸にして・・、
いや、不吉なことは考えないようにします・・・。
これからは、自分を信じて、真正面から攻めます・・・」

一時間ほど前、肩を落として管理人室へやってきた佐原はもう・・、そこには居ません。別人に
ように佐原は変貌しました。戦う男の迫力を二人の女に見せ付けているのです。これが本来の佐
原なのだと、二人の女は佐原を頼もしそうに見ていました。

落ち込んで、悲しい素振りを見せる色男の佐原もそれはそれで二人の女心を揺さぶったのですが、
戦う男の表情を取り戻したイケ面佐原はまた別の魅力があると二人の女はじっと佐原を見つめて
いました。由美子の女心がまた動きました。

「知り合いに腕のいい探偵さんがいます。私が知っている限りでも、これまで難しい男と女の問
題を数件解決してきました。苦労人ですからどんなことでも親切に聞いてくれます。よろしかった
ら、紹介しましょうか・・」

勤めをこれ以上休むことが難しい佐原は由美子の話を聞いて大喜びでした。さっそく由美子が寺崎
探偵事務所へ連絡する約束をしました。男の喜ぶ顔を見た由美子の口が、ここでまた滑りました。

「男と女の問題になると、Uさんも少しは力になれると思います・・」

「エッ・・、Uさんとは・・」

深く考えないでUのことを出してしまった由美子は頬を染めて慌てています。

「私から説明してあげようか・・・?」

困り果てている由美子を見て、笑いながら愛が助け舟を出しています。由美子がコックリ頷いて
います。愛人Uのことを佐原に話してもいいと由美子は咄嗟に判断したのです。 

「Uさんと言うのは由美子さんの愛人です。
勿論、肉体関係が伴った愛人で、その上ご主人公認なの・・・。
うらやましい話でしょう・・・」

少しイジワルそうな口ぶりで愛が説明してます。微妙な話なので、佐原はただ驚いた表情を浮べ
ているだけです。

「そのUさんは露天商組合の親分さんなの、
それで、ウラの問題で彼に頼ると、いままで、何度も上手く解決してくれた・・。
佐原さんの奥様の件はそんな心配はないけれど、万が一その必用があれば、Uさんの手を借りる
ことも出来ると、由美子さんは言いたいのです・・。要するに、佐原さんのためなら、由美子さ
んはなんでもする気になっているのよね・・」

最後の言葉を由美子に投げかけて、愛は笑みを浮べているのです。佐原は驚きながら、由美子の
申し出に感謝して、全面的に援助を求めました。

「いや・・、スッカリお世話になりました・・。
由美子さんと愛さんに話を聞いていただき、いいお話をうかがい、励ましを受けて、ココの重荷
がすっかり軽くなった感じです・・」

佐原が胸を摩りながら女二人に頭を下げました・・。

「これから先・・、時々はココへ来てもいいでしょうか・・?
そうですか・・、そうさせていただきます。ありがとうございます・・・。
なんだか楽しくなってきました。
今晩は久しぶりに美味しい酒が飲めそうです・・・」

何度も、何度も頭を下げ、佐原は管理人室から出て行きました。由美子と愛は公園口まで彼を見
送りました。そして、彼が森の中へ消えるまで、その後ろ姿を見送っていました。

「幸恵さん・・、
今頃、何処にいるのかしら・・・
やっぱり、男が原因かしらね・・」

「う・・・ん・・・、
その可能性が一番高いけれど・・・、
でも・・、幸恵さん、40歳を過ぎているのでしょう・・・、
色恋に狂って、イケ面の佐原さんと、今の充実した生活を捨てるとは思えない・・。
二人の間に何が起こったのか・・、判らないわね・・・」

由美子と愛にも、佐原幸恵失踪の謎は容易には解けないようです。