一丁目一番地の管理人(その30)
21 一丁目一番地の管理人(465)
鶴岡次郎
2012/09/10 (月) 15:53
No.2303

敦子の態度から、これが最後の別れになるとゆり子は悟ったようで、悲しげな、縋るような視線を
敦子に投げかけているのです。

「困ったわね・・・、
そんな悲しい顔を見ると、
ゆり子さんを残して、ここを去ることが出来ない・・」

踏み出した歩を止め、ゆり子を見て、敦子をニッコリ微笑みました。そして、ゆり子の側に腰を
下したのです。今にも敦子に抱きつきかねない素振りを見せてゆり子が喜んでいます。

「主人は勿論、私も働いていますので、そんなに時間は取れないの、
10分間・・、10分だけ・・、お話しましょう・・・
それでいいですね・・・」

ゆり子がコックリ頷いています。ゆり子の方が年上なはずですが、敦子が年長者のように振舞って
います。

「ゆり子さん・・・、
私は何度か浮気をしました・・。
多分、ゆり子さんより男性経験は豊富だと思います。

私の経験から申し上げると、女は浮気と本気の区別が出来ないのです。
身体が溺れると、心までその男に捧げてしまうのです。

でも、どんなに燃えても、所詮、浮気は浮気で、結局、棄てられたり、
逆に、ひと時の熱気から冷めた女が、男の素顔に気がついて、逃げ出したりするのです」

敦子の言葉の一言も聞き逃さない気持ちを込めて、ゆり子は敦子をじっと見つめています。


「お恥ずかしい話ですが、つい先日、浮気相手と別れて、
半年振りに主人のところへ戻ってきました・・・」

ゆり子が驚いています。

「私は夫を裏切り、ある中年男と深い関係になり、その男の体に溺れ、それほど愛情を感じてい
ないその中年男と夜逃げ同然のようにして、駆け落ちしました。

不景気な今の世です、手に何の職も持たない中年男とそう若くない女の落ち着く先は限られてい
ます。この半年、私は一般社会とはかなり違う環境に身を置いてきました。

そこでは女も男も本能のまま生き、決まった相手がいても、よりいい相手をいつも求める生活を
しているのです。
女は男を側に繋ぎとめるため、考える限りの工夫をし、メスの魅力を磨くのです。男は男で、い
い女を自分のものにするため、無理を重ねるのです。

私と一緒に来た冴えない中年男でさえ、私は他の女に取られる心配をしなければいけませんでし
た。彼は彼で、私が他の男に靡かないように、毎夜、激しく愛してくれました。彼が勃起促進薬
を常用しているのを私は知っていました。

世間では一旦夫婦になれば、そこで恋愛は終わりますが、そこでは世間で言う夫婦約束は通用し
ないのです。ただ、強いメスとオスだけが生き残れる世界なのです・・・」

あまり詳しく的屋仲間のことを話すと、圧村と竹内の関係を悟られる心配もあるため、敦子は当
たり障りのない話をしたのです。