一丁目一番地の管理人(その30)
18 一丁目一番地の管理人(462)
鶴岡次郎
2012/09/03 (月) 14:30
No.2300
2299(1)

土手の森公園、早朝6時、散歩道を外れた薄暗い森の中、一人の女が大木の根元でうずくまって
います。女は両手を合わせ、祈りの姿勢をとっています。女の前には自然石を刻んだ小さな石碑
が立っていて、女がお供えしたのでしょう、白い花束が置かれていました。

そう・・、ここは一年前、圧村和夫が殺害された現場なのです。女はこの森の近くに住む金倉ゆ
り子です。ゆり子は週に一度はここへ顔を出します。いつもは、家事が片付いた10時過ぎにこ
こへやってくるのですが、今日は恋人圧村和夫の一周忌ということで、彼女が圧村の死体を発見
した時間に合わせてここへやってきたのです。

死体の発見を警察に通報しなかったこと、犯人の手がかりになるハンカチを隠匿したことで、警
察からお咎めは受けましたが、金倉夫妻はそれ以上の追及を受けませんでした。たぶん、一ヶ月
遅れながら、ゆり子が出頭して事実を告白したことが犯人逮捕に繋がったことが評価されて、ゆ
り子と彼女の夫金倉武雄は罪に問われなかったのだと思われます。


ゆり子の側には少し大きくなった柴犬の健太が神妙な表情で控えています。ゆり子は長い間両手
を合わせて祈っていました。圧村とすごした数ヶ月の思い出が、まるで昨日の事のようにゆり子
のカラダに蘇っているのです。

深夜、人影が絶えた森の中で、全裸になった二人は、愛液を迸らせながら、狂ったようにこの森
で抱きあったのです。むせ返るような男の香りに包まれ、男の厚い胸に抱かれ、剛棒を深々と股
間に受け入れた感触が、その快感が、昨日のことのようにゆり子の脳裏に蘇っているのです。

「ああ・・・・、
和夫さん・・・・」

祈りの姿勢を保ったまま、ゆり子ははっきりと肉棒の圧力を肉襞に感じとっていました。そこは
溢れるほど濡れているのです。ゆっくりと右手を伸ばし、指を下着の脇から差し込み、濡れた狭
間に二本の指を挿入しました。祈りの後、石碑の前で女陰を慰めるのがゆり子の習慣になってい
るのです。


主人であるゆり子が低いうめき声を上げ、身体を揺らしているのを見守るのが、健太の役目です。
その時・・、健太が突然顔を上げました。そして唸り声で異変をゆり子に告げたのです。

慌てて股間から右手を抜き取り、ゆり子はスカートの裾を整えながら立ち上がりました。ゆり子
にもはっきりと足音が聞こえてくるのです。

あの日と同じように、土手の方向から足音は軽やかに近づいてきました。白いTシャツに、肌に
張り付いたデニムの白いパンツ姿の女性が、朝日を背後から受けながら、近づいてきます。

健太に引っ張られるようにしてゆり子は散歩道に上ってゆきました。ジョギングをしてきた女性
が突然路上に現れたゆり子を見て、びっくりして立ち止まっています。

二人は5メートルほど離れて、睨みあう形で立っていました。最初に声を出したのはゆり子でし
た。

「もしかすると・・・、
一年前、ここで死体を発見された方ではありませんか・・・」

「・・・・・」

ジョギングして来た女性がびっくりして、ゆり子を見つめています。そして、彼女はゆり子の側
に居る柴犬の健太に気がつきました。

「ああ・・・、
あの時のワンちゃんですね・・・」

一年前、森の中から出てきて、目の前を駆け抜けた柴犬をその女性、敦子は覚えていたのです。
柴犬が現われた森の中に、死体が横たわっていたのです。

「やっぱり、あの時の方・・・
私・・、この犬の飼い主です・・・。
あの時、森の中にいて、貴方を見ていたのです・・」

「エッ・・・、あの時、森の中に居たのですか・・・
では・・、あの死体を私より先に見つけていたのですか・・、
スミマセン、スミマセン・・、そんなことはありませんよネ・・・」

あの死体が竹内を恐喝した組員で、犯人は竹内が圧村に手渡した100万円を強奪した地元の大
工であることを知っている敦子は、目の前に居る上品な夫人が死体とも、犯人とも、無縁の人物
であることに気が付いて、自身の勘違いを慌てて修正しているのです。