一丁目一番地の管理人(その29)
26 一丁目一番地の管理人(444)
鶴岡次郎
2012/08/03 (金) 11:40
No.2276

「由美子さん・・、
酷い女だと思っているでしょう・・、
私は女の風上に置けない、ダメな女なのです・・」

「・・・・・・」

どうやら喜美枝は由美子の沈黙の意味を理解している様子です。

「流産と判った時、私は初めて一連の事件に真剣に向き合うことが出来ました。
そして、この時初めて、大きな間違いを犯したことに気が付いた・・。

由美子さんが今感じておられるように、
当時の私は思い上がったバカな女でした。
ただ体の快楽だけを求めて、その結果大切な夫の愛情を裏切ってしまった。
それだけでなく、当時の私には男の真心が見えていなかった・・。

子供を失い、その時初めて、その子を授けてくれた男の愛情を改めて知らされたのです。
そのことに気がついた時は、既にその男は手の届かない遠くへ行っていた。

なに不自由ない生活を保証してくれた夫、伍台を裏切り、
ただ肉の快楽を求めた女・・・、
そんな女を真剣に愛し、一緒に暮らそうと、子供まで授けてくれたアダモ、
私はそんな優しい男達の愛情に何一つ応えていなかったのです・・。

何の取り得もない、少し見映えが良いだけ女なのに、
男達にチヤホヤされるのは当然だと思い上がっていました

人の心を理解することが出来ない、
性欲に狂ったバカな女なのです・・・・。
私のせいで、伍台にも、アダモにも・・、
取り返しのつかない大きな迷惑をかけました。

男達から見向きもされなくなった今・・、
初めてそのことに気がついているのです。
遅すぎますよネ・・、バカな女です・・・・」

「・・・・・・・」

喜美枝が特別性質(たち)の悪い女だと由美子は思っていません。それどころか性格も、頭脳も
人並み優れた女性だと思っているのです。そんな喜美枝でさえ、性欲に翻弄されると、後になって
当の本人が眼を背けるような身勝手な行動をすることになるのです。
女なら誰しも彼女と同じ過ちを犯す可能性が高いと由美子は思っているのです。それが、持って
生まれた女の性、女の業だと由美子は考えているのです。

「由美子さん・・、
こんな私でも、伍台に会う資格があると思いますか・・・?」

「男と女のことは、ある境界を越えると、他人は入り込めなくなります。
喜美枝さんのケースも、私がアドバイスできる範ちゅうを超えています。

ただ・・、一つ言えることは、
伍台さんは全て承知の上で、喜美枝さんをデイナーに招待したのです。
私なら、彼の気持を信じて、在りのままの自分を彼に曝します。
男の大きな気持にこの際甘えるのも女の特権だと思います。

後は喜美枝さん自身が、勇気を持って決めるべきです」

「判りました・・・。
それだけ聞けば、十分です。
彼に裸でぶつかってみます・・。

それで・・、一つ、由美子さんにお願いがあります。
もし・・、彼が受け入れてくれたら・・・、
いいえ、彼との仲が決裂しても、
これから先、由美子さんのお友達でいたいのです。
よろしいでしょうか・・・?」

「勿論、喜んで・・、
伍台さんを交えて、私の家でお食事会がもてたらいいですね・・」

二人の長い電話会議は終わりました。喜美枝は久しぶりに戦う女に戻っていました。