一丁目一番地の管理人〈その28〉
28 一丁目一番地の管理人〈419〉
鶴岡次郎
2012/06/13 (水) 15:29
No.2246
「以前は他の男に抱かれると、どこか構えるところがあって、身体や心の中に燃えきれない部分
が残っていた。それが、罪悪感であったり、自分に対する嫌悪感であったりしたけれど、いずれ
にしても、夢中でセックスに溺れきることがなかった・・。

私はセックスが好きでない性質(たち)だと、ある意味で、あきらめていた・・。それで、男に
抱かれても無理にセックスを楽しもうとしなかった。そんな私だから、きっと私を抱いた男も満
足していなかったと思う・・。

それが、仲間の男達に抱かれると、心からセックスを楽しむことが出来た。他の女が悶えている
と、それに負けないよう、自分も乱れようとする奇妙な競争意識さえ芽生えて、私は生まれては
じめて、セックスに溺れこんだ。そうなると、相手の男も燃えてきて、『すばらしい身体だ・・、
感度が抜群に良い・・、まさに名器だ・・』と、今まで聞いたことがない言葉で私を褒めてくれた。

女って単純だから、そんなに褒められると、私は名器の持主かもしれないと信じるようになり、
益々セックスに精進するようになった。そして、男達が喜ぶことなら、何でも貪欲に取り入れ、
実践するようになった」

「ラビア・ピアスはそのためだね・・」

「ハイ・・、ピアスに限らず、剃毛、ボディ・ペインテイング、膣収縮剤、強壮剤その他、仲間
の内でセックス増進に効果があると思われていることは何でも取り入れた。

ただ、不思議なことに、SMまがいの行為は仲間内では一切流行らなかった。ごく特殊な趣味を
持つ女以外、SM行為はそれがどんなものであれ、たとえ男達がどんなに喜んでも、女達はそこ
から快感を得ることが無いのです。男達は賢明にもその事実を良く知っていて、女達の嫌がるこ
とは決してしなかった」


冷静な表情を見せていますが、朝森は内心少なからず驚いていました。敦子が毎日のように複数
の男と乱交する環境で過ごしたいたことも驚きですが、敦子がそのことを嫌っていなくて、むし
ろ、その環境の中でセックスに目覚めたことを知ったのです。

そんな組織の中で生活すれば、どんな女でも変わるはずだと、敦子はどんなに変わったのだろう
と・・、朝森はあきらめが入り混じった、それでいて、心弾む、捉えようもなく高揚した奇妙な
気分に取り込まれていました。そして、その感情は朝森にとって、決して不愉快のなものではあ
りませんでした。

多分その高揚感が敦子の掌の中にある彼の陰茎を更に膨張させたのでしょう、敦子は朝森が何故
か興奮しているのを悟り、彼が淫らな話を受け入れ、喜んでいることを知ったのです。敦子は更
に話を続けることにしました。

「正直に申し上げます。多分、私は以前の私と全く違う女になったと思います。
極端な言葉を使えば、どんな男に抱かれても、その瞬間、私はその男にトコトン惚れて、
全てを忘れて悶える女になってしまったのです。

心と身体が、別々になってしまったのかもしれません・・、

あなたを心から愛しています。
それでも、他の男に抱かれたら、
その瞬間だけは、貴方を忘れて狂いだすと思います。

こんな私を・・、受け入れていただきますか・・?
こんな私だけれど、お側に置いていただけますか・・・?」

そう言って、あどけない表情で朝森を見つめているのです。その姿は朝森にとって、まさに天使
に見えました。胸を突き上げる感動を朝森は押え切ることが出来ませんでした。

〈敦子・・・、
お前の話を聞いていて、この上なく淫蕩な話を聞いていて、
自分でも驚くほど、お前を愛していることが判った・・・、
敦子の全てが好きだよ・・・・〉

両腕で敦子を抱きしめ、朝森は心中で敦子に呼びかけていました。その気持は敦子に十分に伝
わった様子です。敦子が涙を溢れさせて、彼の胸に頬をつけ、下から朝森を見上げていました。
朝森が唇を寄せました。敦子が瞼をゆっくり閉じました。二人の唇が優しく触れ合いました。敦
子は人形のようにしていました。二人の心が完全に溶け合った瞬間でした。(1)